体内リズムの重要性 ソーシャル・ジェットラグ
(社会的時差ボケ)とは

ソーシャル・ジェットラグとは、社会的時間と体内時計の不一致によって生じる様々な不調を指す言葉です。「平日と休日との睡眠のタイミングのズレ」が体内時計の乱れを引き起こし、昼間の眠気や疲労の原因となります。

監修:明治薬科大学 リベラルアーツ 准教授駒田 陽子 先生

体内リズムの乱れを招く
「ソーシャル・ジェットラグ」

2006年にティル・ローネベルグ博士が提唱した概念が「ソーシャル・ジェットラグ(社会的時差ボケ)」。体内時計が社会的な時間と合わないことによって生ずる、時差ボケのような状態を指します。体内時計には個人差がありますが、これに対して社会のタイムスケジュールは画一的で、多くの人は仕事や学校など社会に合わせて生活しています。そのため平日には睡眠時間が短縮しがちで、平日の睡眠負債を解消しようとして、週末の朝に朝寝坊(いわゆる寝だめ)をします。 こうした平日と休日で睡眠のタイミングが異なる状況は、週末の夜に数時間の時差がある地域に西向き飛行をして月曜日の朝に戻ってくるようなもの。私たちは日々の生活の中で、海外旅行をしなくても、毎週のように時差ボケ状態をつくりだしている可能性があるのです。

ソーシャル・ジェットラグ時間
Curr Biol. 2012 May 22;22(10): 939-43.supple Figure S1から改変

「ソーシャル・ジェットラグ」が
招く様々な悪影響

大塚製薬の調査では、ソーシャル・ジェットラグの時間が長い人ほど、平日・休日を問わず、「起床時に体の疲れが取れない」「起床時の目覚めが悪い」など、睡眠に起因するさまざまな不調・課題感を抱えていることも明らかにされました。

各項目7段階で回答してもらったうち「非常にあてはまる」「かなりあてはまる」と回答した人の割合。ソーシャル・ジェットラグの時間が長いほど、睡眠に関する課題を多く抱えていることがわかりました。

「ソーシャル・ジェットラグ」が招く様々な悪影響

わずか2日の「休日朝寝坊」が
体内時計を狂わせる。

休日明けの月曜日、なんとなく身体が重く、頭もスッキリしないという経験は誰にでも覚えがあるでしょう。「ブルーマンデー」と呼ばれる現象も、平日と週末の就寝・起床時間のズレが原因になっている部分があると考えられます。健康な男女16人を対象に、金曜・土曜日に寝られるだけ寝た場合と、いつも通りに寝た場合を比較すると、わずか2日の休日朝寝坊が体内時計を遅らせてしまうことがわかりました(Taylor, Wright, & Lack, 2008)。また、翌週の眠気度と疲労度においても、寝られるだけ寝た場合の方が高くなる(=悪化する)ことが明らかになっています。

《「休日朝寝坊」の影響》
日曜夜の体内時計が遅れる

唾液中のメラトニン濃度

健康な人が金曜の夜と土曜の夜に寝ていられるだけ寝て「休日朝寝坊」をした場合の、金曜の夜と2日間寝られるだけ寝たあとの日曜の夜のメラトニン分泌の推移(典型例)。金曜の夜に比べ、日曜の夜はメラトニンが出るのが遅くなり、また分泌量も少なく、寝つきも悪かった。

翌週の前半まで
眠気が強くなる

眠気度(スタンフォード眠気尺度)

翌週の前半まで
疲労感が強くなる

日中の疲労度

睡眠に問題がない男女16人(平均25.7歳)が、金曜日の夜と土曜日の夜に寝ていられるだけ寝て「休日朝寝坊」の状態にした場合といつも通り寝た場合とで、翌週の眠気度と疲労度を比較した。結果、どちらの指標も「休日朝寝坊」した場合の方が強く、特に月曜日と火曜日の数値が高い上、水〜木曜日まで影響してしまうことがわかった。

(Sleep and Biological Rhythms 2008;6:172–9.)


休日に寝だめをする人
=「体内リズム」が乱れている人

休日の朝は遅くまで寝て、「寝だめ」する人は少なくありません。調査によると、女性の39.5%、有職女性に限ってみると49.8%が寝だめをしています。その目的は、「平日の疲れを取るため」だったり、「睡眠不足を補うため」なのですが、実は寝だめこそが体内リズムを崩す原因です。休日に寝だめをする人=体内リズムが乱れている人といえるのです。

休日に寝だめをしている人の割合

寝だめをしている 38.9%

平日より休日の起床時間が遅い理由

平日より休日の起床時間が遅い理由
(両方とも)
出典:「現代人の睡眠と目覚めに関する意識調査」

「寝だめで睡眠負債を返済」はNG!

普段から耳にする「寝だめ」という言葉。睡眠不足の日が続いた後で、その「睡眠負債」を一気に取り返すというニュアンスを含んでいますが、残念ながら、蓄積した「睡眠負債」は一気に返すことはできません。また、眠りを貯金して翌週に繰り越して使うこともできません(週末に長く寝ておけば、翌週睡眠不足になっても大丈夫、とはいかないのです)。むしろ、睡眠時間を確保しようとして休みの日に朝寝坊をすることで、体内時計が乱れてしまいます。休日も平日と同じ時間に起床して、朝の光を浴びて、朝食をとり、体内時計を整えることが大事です。そのためにも毎日の生活の中で、睡眠時間を確保できるように、時間の使い方を工夫しましょう。

駒田 陽子
駒田 陽子(こまだ・ようこ)
明治薬科大学 リベラルアーツ 准教授

早稲田大学 文学部 心理学専修 卒業。早稲田大学大学院 人間科学研究科 博士課程修了・人間科学博士。日本学術振興会特別研究員、国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所特別研究員、東京医科大学 睡眠学講座 准教授 などを経て、2017年より現職。

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